Starlings Of The Slipstream

今日もどうもありがとう ほんとにいい日だった

Tatuki Seksu / Hanazawa EP

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http://takashi-kun.com/release/hanazawa.html


Tatuki Seksu、その余りにブラックジョークの過ぎる名前に反応できる、あなたはどんなに幸福なことだろう。
花澤香菜という、一般的に決して歌唱力を認められているわけでない声優の歌声は、
崇高な響きを持ったギターサウンドの上で、こんなにも輝いて僕達に微笑みかける。


「もうそんな遠くへ行かないで、僕の傍にずっといてよ」
やっとのことで手を掴んだと思ったら、「せーのっ」と無邪気に笑い、
彼女は身を翻して、また何処かへ消えてしまう。
彼女の声はいつもそうだ。耳元で囁かれるその声は、僕らにそっと近づいて、
気付いた頃には遥か彼方に消えていく。それは2次元と3次元との距離を、そして彼女と僕らの距離という、
絶対に縮まらない距離を保ち続けているかのように。
成長期の少女の持つ一瞬のあどけなさを内包した声に導かれながら、
気付けば僕たちは、余りにも美しいギターノイズの海に漂っている。
そこに近づけない僕たちは、どうしてこんなにも無力なんだ。
そう感じながら、再び再生ボタンを押す。


“いつかゆけるなら遠い海へ 世界の果ての果てまで (doll)”


たどたどしく音符を追ったイントネーションの乏しい歌唱は、ノイズの中を彷徨って、
僕達の元に「でも、そんなんじゃ駄目」と確かに語りかける。
そう、Tatuki Seksuとは、この混沌とした世界の中で、永遠に見つからない“何か”を追い続ける逃避行なのだ。
そこには何も無いことを自覚していても、それでもそれを追い求める不毛さには、
決して気付こうとしない、こんな盲目な僕たちへ送られた賛美歌だ。


愛なき世界からいい加減僕たちは離れて、少し遠くに旅に出るべきだ。
さぁ、彼女の声と共に行こう。