Starlings Of The Slipstream

今日もどうもありがとう ほんとにいい日だった

Best Album in 2013

ルー・リード逝去、これに尽きる1年でした。

さて、昨年……ではなく一昨年の年間ベストを振り返っていると、なぜ俺はケンドリック・ラマーの大傑作である『グッド・キッド、マッド・シティー』を1位にしなかったんだ、田ちゃんなんて歴史認識のないラッパーのいつもの具体性の無いサヨの遠吠えと同じじゃないか(言い過ぎ)という自責の念にかられてしまい、そのような後悔が大いに影響して聞き逃したアルバムはないか、評価を違えた作品はないか、と例年以上の冷え込みを見せる12月、追い込みをかけて様々な音源を聴いていた所どうやら今年はかなり豊作らしく、また今年は反ルサンチマン的なスタンスをモットーに、言わば資本の……要するにプロモーションから何から金のかかってそうな音楽を色々と聞いたということもあり、例年以上に選考に時間がかかってしまい、かのような理由で年内に間に合わな……全て言い訳ですね。

先程も言及しましたが、今年は多くの素晴らしい作品が発表された年だというのは疑いようが無い事実だと思うわけで、大御所の10年以上のスパンの作品や、もうキャリアを終えただろう人たちによる良作も相次いでいたわけです。

で、ここまで良作、名作が多いと、たとえ個人の感性で選ばれたものであったとしても、一体何故この作品が選ばれているのか、という疑問が少なからず生じてしまうわけであって、そういう理由もあって、まぁ今年は少し参照点と言いますか、簡単に琴線に触れたポイントだけでも記すことが礼儀ではないかと思った次第であり、下位は簡潔に、上位はそれなりに文章を付してみました。お前これは今年のリリースだけど並列にするにはそぐわないし反則だろ、というツッコミもあるラインナップであるわけですが、その点につきましてはどうか個人の至らない一考という事でご容赦下さい。では前置きが長くなりましたが、次点の5枚に続き、今年の10枚です。

 

【次点】

・Earl Sweatshirt - Doris

・Janelle Monae - The Electric Lady

・Deep Magic - Reflections of Most Forgotten Love

Run The Jewels - Run The Jewels

・DJ Koze - Amygdala

(順不同)

 

【Best Album in 2013】 

10.仙人掌Be In One's Element 

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今年日本のヒップヒップを聴いてきて思ったのは、ストリートに重きを置いたリリシストの不在ということだった(イスギは段々と袋小路に入っていき、スラックは東京への恨み節ばかりになってしまった……)。それを打開できる唯一の存在であるシーダは未だシーンから距離を保ち、彼がキュレイターを務めるCCG新作が年内にリリースされなかったことは最も残念なトピックの1つだったが、その状況下でも一矢報いていたのはこの作品とキッド・フレシノの1st、そしていつものようにノリキヨだけが別格だった。全盛期を過ぎリリシストとしての衰え(ベタへの移行)を見せるも、これまでのキャリアの総括としてはこれで十分すぎるほどだろう。
 
9.Neil YoungLive At The Cellar Door

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アフター・ザ・ゴールドラッシュの狂騒の後、ハーヴェスト前夜、つまりは最高のニール・ヤング。前回の一連のアーカイブでも思ったけれど、弾き語りというミニマルな単位に置き換えられるとニール・ヤングのその圧倒的なソングライティングにひれ伏さざるを得ない。隣で囁かれるような臨場感のある素晴らしいパフォーマンスと録音ではあるが、それは目の前の観客すら飛び越えて、どこか遠くの荒野を目指して自己の存在証明であるかのように歌われている。
 
8.Laurel Halo - Chance of Rain

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アルバムを通して幾度と無く現れるミニマリズムの萌芽は、この作品がエレクトロ・ファンクの最新系であり、デトロイト・テクノの子孫である事を匂わせる。しかし、この音楽を通して我々に彼女の全体像を掴むことは許されておらず、ひいてはここに広義のセンチメンタリズムは決して存在していない。言わば絶対的不感症。しかし、このストイックさはどこから来るのか……

 

7.Kanye WestYeezus

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自分の事を神とか言っちゃうとか本当いい加減にしろ豚がと思ったけれど、このサウンドは悔しいが圧倒的だった。はっきり言って、誰もカニエと同次元のレベルでヒップホップたるものに取り組めているラッパーはいない。しかし、リリックを細かく見ていくと、今更お前が言うかという部分もあるし、その裏返しとしてそれは自分で言うしか無かったんだろうなというような孤独感も内包している(本当にどうでもいいのも多いけど)。それを果たして評価できるかどうかが分かれ目か……
 
6.Queens of the Stone Age...Like Clockwork

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恐らく、この開放感を嘲笑することは容易い。しかし、ジョシュ・オムが『Songs for the Deaf』以来真の意味でカイアスやアンダーグラウンドからの呪縛から完全に解き放たれた記念碑的なアルバムという点において、僕はこのアルバムを聞き逃すことが出来ない。これまでの志半ばでその望みを絶たれたアメリカのオルタナティブ・ロックの魂を掬い上げ、ジョシュ・オムはその肥大化したマチズモに対して忠実に、しかし時に我々の側に寄り添いながら、この大文字すぎる「ロック」を先導する。本当に涙が出るくらい最高だ。
 
5.DJ Sprinkles - Queerifications & Ruins 

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この3年間にリリースされた音源をコンパイルした作品ではあるが、どこかその根底には共通の物語が流れているように思う。言わばディスクロージャーのコインの裏。時にアンビエントに接近しつつも綴られる、内省的なディープ・ハウスの抒情詩の数々。
 
4.Julia HolterLoud City Song

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最初に聴いた時、管楽器が導入されたことにより時に躁転したかのような軽やかさを見せるのに驚いた。50年代のミュージカルにインスパイアされたという言葉そのままに、歌と楽器が交互に主役を演じ分け、同時に響き合う。その決して躓くことのない橋渡しの連鎖が、震えるほどに美しく、ポップ・ミュージックの快楽を我々にもたらす。ここではもはやドローン/アンビエントというカテゴライズは彼女に対しては不要である。ヴァシュティ・バニヤンの猿真似は他に任せて、彼女は行けるところまで行くべきだろう。
 
3.Chance The Rapper - Acid Rap

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泥臭い。ゆえに痛快でもある。そう、ジャジーヒップホップが強姦しなぶり殺したヒップホップと黒人音楽とのセックスを、今新たにチャンス・ザ・ラッパーは始めようとする。根底にあるのは、勿論ソウル・ミュージックだ。だからこそ、彼は昨年のケンドリック・ラマーのそれと同じように、まず歴史に立ち返る。その過程として、家族への感謝も惜しまない。コモンもカニエ・ウェストも彼にとってはもはや、偉大な黒人音楽の歴史の1ページだ。それらは地続きにある。重要なのは、彼がジョーイ・バッドアスなどのように「90年代」に留まろうとしていないことだ。しかし何と言ってもあのシャウトだろう。あんなダサくてどこかセクシーなシャウトはやはりマイケル・ジャクソンの影響なのだろうか……
 
2.RCサクセション悲しいことばっかり

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清志郎が「君」と「僕」と同一視し、「分かってもらえるさ」と歌ってしまう以前の、その自らの言葉によってその場を旋回し続けることで自己の投影ではない「他者」を根源的に問い続けた、決して完成することのない大切な歌の記録。それは、市井に溢れる共感の全てを黙殺し、今でもその作者である清志郎自身のためだけに鳴り続けている。
 
1.Tim HeckerVirgins

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圧巻。『Radio Amor』以前のリズムへの回帰やジャンルを横断しつつ奏でるメロディの豊穣さなどからもこれまでのキャリアの総決算が伺え、それだけに留まることなく、それらの要素を複雑に組み合わせることで、更にまた違った景色を描き出している。今までの彼の音源はその一部分のみを聴くことを許可されてはいたが、その複雑さゆえ、今作は一枚を通して聴くことを我々に強いているかのようである。ここでは『Harmony in Ultraviolet』のノイズはただ単調であり、あの傑作である『Radio Amor』ですらドローンとアンビエントの内側に留まろうとしている臆病な音楽のように聴こえる。特に、ピアノの行き場を失ったかのような同音階の旋律の絡み合いは、見事に今を切り取っているかのように冷たく、そして耽美的に響き渡る。